2018年12月2日日曜日

佐藤亜紀『1809 ナポレオン暗殺』2018年の記録

外れがない。もれなく面白い。もれなく面白くて腹立たしい。とんでもなく凄い瞬間を目撃しているのではないかと思う。とんでもなく重大で、深刻で、恐ろしく危うい状況、その最中と言うか渦中、ど真ん中にいると言う高揚感。相当にスレスレ。常に瀬戸際、紙一重。気がつけば抜き差しならぬ今が延々。逃げ場のなさよ。けれどやってのける。やってのけてしまう。彼等は結局。割合に落ち着いてこなす。賭けも、謀略も、抵抗も、その錯綜具合も、そのスケールも、高まって行き、極まって行き、けれど物語はどこまでも華麗なまま、冷静さを失わず、軽やかに、滑らかに、走り続ける。
それが如何に凄い事であるか、それが如何なる類のものであるか、如何に重大で、危うい状況であるか、多くを語る事なく、的確にわからせると言うか、すぐさま思い知らせるそのやり口の巧妙な事。見せ方の妙。魅せ方の妙。配し方の妙。用い方の妙。動かし方の妙。まるで隙がない。鮮やかなやりよう。逐一瀟洒な。わかるようになっている。読めばもう、黙って楽しむほかない。

語り手であるパスキ大尉のほどよさと、物語を牽引する公爵と言う存在の抜群さ、そしてその結末の心憎さよ。ザ・享楽と言った感じ。佐藤亜紀はいつ読んでも、どれを読んでも面白くて、大変腹立たしい。


1809―ナポレオン暗殺 (文春文庫)
佐藤 亜紀
文藝春秋
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