2019年1月26日土曜日

サキ『クローヴィス物語』

嫌な所を攻めてくる。一篇一篇は小粒なのだけれども的確に急所を狙ってくる。地味に痛い。抉るだけ抉って終わる。抉りっぱなしのまま終わる。穴ぼこだらけになる。ささくれだらけになる。浅いのに妙に痛くて無視出来ない切り傷だらけとなる。どこを攻めれば有効であるのか、どうすればより痛いかを熟知している人間のやり口。防ぎようがない。
ただただ膨らませて抉って掘り返して、その後どうする訳でもない。切りっぱなし、裁ちっぱなしのまま放り出す、捨て置く。切れ味が鋭くなければ出来ない。徹底している。完成されている。完成された嫌がらせ。皮肉としての仰々しさ、容赦のない消費の仕方。小馬鹿にされ過ぎて笑う。悪ど過ぎて笑う。
薄笑いと共に見せ付けられる。人の営みの愚かさであるとか滑稽さ。嫌な所を狙ってくる。そのやり口はしばしば残酷な領域にまで達する。笑ってしまう時もあるけれど、痛快な類のものではない。諦めであり、見限りであり、嘲りであり、乾きであり、暗く澱んだ笑い。読後なんとなくもたれる。


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サキ
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