2015年6月7日日曜日

富岡多恵子『白光』『逆髪』

『白光』
血の繋がりという既存の結び付きを要さない、新しい家族の形を作り上げようと抱く、奇抜な信念。求める関係に付与するのは物語性、だが負った傷は生々しく、その痛みはひどく身近なもの。内にある理想と、外から見た現実。そこに生じる落差が、面妖な試みとその結末に、遣る瀬無い痛ましさを与える。語り手は試みの欠点も、そもそもそれが実現不可能なものであることも、最初から見抜いていた。甘さも冷淡さもない、ただ、他者の信じるものを幻と糾弾するほど、子どもではないだけ。あけすけなようでいながら、自らの特殊性を隠すことに長けた語り手の、口数の多さ、辛辣で、軽快で、それでいてどこか、寂しさを帯びた言葉の熱風が、何よりも心地よい。

『逆髪』
健全さを尊ぶ社会の中で、絶えず好奇の目に晒され続けなければならない異形のものたち。手垢で汚れた幻想として、無理ある甘言として、彼等が打ち砕くものは、性を要する関係に抱かれがちな、美しき理想。何と言う身も蓋もなさ、その辛辣な言葉の勢いと、抉り出した本質の辛さに、まず圧倒される。互いの本心をけん制するために繰り返す、冗談の応酬。矛盾を隠した言葉のじゃれあいによって、姉妹の間に保たれた均衡は、危うくも強固。物言いは軽くおどけ気味、生きづらさなどおくびにも出さないかと思いきや、語り手はそこに、自らの異形をしっかりと潜ませた。器用なように見えて、その実不器用、異形という孤独に苦しんでなお、たくましく、鮮やかに、世界を生き抜く女性たち。痛快さへの憧れと抵抗感、同時に芽生えた快不快に刺激され、心はたまらずに叫び出す。



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