2015年8月28日金曜日

ポール・ギャリコ『雪のひとひら』

優しく柔らかな言葉で語られる、雪のひとひらの一生。己が身を包む温かさ、自らの信じる絶対的な存在から与えられる安らぎ、縋るべき相手がいると言う幸せ、そして伴侶から愛される幸せ、家族と共にある時間の穏やかさ、永遠の別離が生む哀しみ…絶え間無く流動し続ける彼女の人生から見えてくるものは、女性として生きることの、喜びと哀しみ。
彼女は自らを見守る者の存在を信じ、その愛情を感じることで、多くの苦しみを浄化し、最期まで幸福で有り続けた。哀しみを内包してなお、愛を享受する喜びに輝く、健気で澄んだ心が眩しい。

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その幸せや喜びや悲しみを、分かち合えないとしても。自分にはそれと感じられぬものであっても。同じ性を持つとは言え、異なるものを幸せとし、喜びとし、悲しみとするために、生じる差異があっても。惹かれてしまう。羨望はなく、もどかしさや歯痒さ、悔しさを噛み締めた、苦く甘やかな諦めとともに。それを幸福とする、或いは、それを幸福へと昇華してしまう健気さ、そこへと至るまでの陰翳、汚穢の部分を見せることを拒む強さと愚かしさ。他の介入、他の介在の一切を受け付けぬほどに頑なな。どうしたって、連想してしまう。どうしたって、惹かれてしまう。決して届かぬそこを、懸命に見つめ続ける。


雪のひとひら (新潮文庫)
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ポール ギャリコ
新潮社
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