織り込まれた言葉たちはみな、遊びの緩やかさを持たず、粘性を帯びた互いの熱と皮膚を重ね合わせるよう、間隙なく連なり、陰惨に、淫靡に、硬く、時に柔らかく、あらゆる記憶を、匂いを、温度を、その多くを濃密に育て行く不在を、象り続けている。完璧な愛さえ。汚穢、腐食、苦痛…迷宮に滞るすべてさえ。
濃霧のように充満する艶かしい緩慢さと、残酷な熱…じゅくじゅくと腐り落ちて行く自らを捉えながら、侵されるがまま。柔らかく蕩ける朽ちて行くことは、僅かな嫌悪と、多くの甘さを伴い、存外に快いものであるが故に。
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自分はこのために、この感覚を味わいたいがために、本を読むのではないか。金井美恵子を読んだ後、いつもそう思う。自分は書くという行為の難解さ、手強さに対してさえ、熱く、切実な執拗さを以て、繰り返し挑み、試み続けるものの作品がたまらなく好きなのだと思う。
象り続けて欲しい。幻惑的な言葉とイメージを以て。不明瞭なものを不明瞭なまま、明瞭なものを明瞭なまま。多くの変化を、多くの変わらなさを。果てしなさを、避けられぬ死を、生の不可解さを。遣る瀬ない苦しみを。癒えぬものの末路を。明快なものではない救いへの変遷を。抜け出せぬものの心地を。