2015年6月22日月曜日

笙野頼子『母の発達』『二百回忌』

『母の発達』
母は発達した。既存の”母”を殲滅し、新種の”母”を、次々生み出して行く存在へと。娘は自ら殺した母の発達を、懸命に手助けする。同じ呪縛の犠牲者であった母と娘が結託して挑む、愉快で楽しい、恐怖の解体作業。…これだから笙野頼子はやめられない。解体されて行く敵は当然、二人をそれまで抑圧していたものたち、手垢に塗れた女性像、母性というものへの信仰による呪縛。言葉が見せる歪んだイメージ、自分たちを苛むものへの皮肉と嘲笑の色合いを、たっぷりと含んだイメージ。渦巻き、氾濫するそれらの猛攻によって、堅固であったはずの呪縛が、無様に崩れ落ちて行く喜び、爽快感。勢い良く暴れ回る言葉の群れ、激しく苛烈な奔流がどす黒い笑いを運び、読むものの心を圧倒し、残忍な痛快さに満ちた、愉悦の時間へと誘う。

『二百回忌』
嫌らしく、煩わしく、こびりつき、離れずにいるものたち、土地、血縁、家族…それらをぶち壊し、台無しにして行くイメージの波。嫌悪、皮肉、嘲り、闇を象る乱痴気騒ぎ。悪意の、その中に存在していた僅かな温かみさえ、騒乱の渦に飲み込まれて行く。何もかもが惨たらしく、滑稽に歪められて行くことの痛快さ。人々が浅く秘めた矮小な闇を引きずり出す、幻覚の楽しさ。ハチャメチャな悪夢、酷く、激しく、容赦無く、だが、それはいつも、苦しみを吐き出すような切実さを以って、真剣に、どこまでも真剣にハチャメチャであるが故に、快いと感じられる。



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