2019年10月7日月曜日

金井美恵子『楽しみと日々』

快楽であるもの。魅惑であるもの。金井美恵子の内にあるもの。金井美恵子にとっての幸福であるもの。楽しみであるもの。甘やかで、柔らかで、滑らかで、鋭く、濃く、美しく、綺麗で、繊細で、艶やかで、豊かで、親しくて、快いもの。瞬間であり、情景であり、色彩であり、感覚。飽きる事なく、自らの記憶と混じるほどに、繰り返し、幾度となく、求め、貪り、感じ続ける類の。沢山詰まっている。その細やかさと膨大さ。うっとりとめまい。うっとりと感嘆。金井美恵子の言葉によって知り、体感する喜び。立ち上って来るもの達の熱さ、その貴重さと甘美さに、息をのむ。
自らの幸福や快楽、自らの内にあり、埋もれてなおいつか甦り、引き出され続け、残り続ける、美しい瞬間や情景、楽しさや親密さや甘美な感覚と言ったもの達を語る金井美恵子の言葉を読むと言う、至福のひと時…。そこには、かつて金井美恵子の小説の中で、或いはエッセイの中で、自分が確かに目の当たりにし、感じた事のあるもの達の姿も。その言葉を読む事で、読んだ事で、確かに感じ、生きた事で、自らの記憶となり、自らにとっても幸福や快楽と化したもの達の。

とても楽しくて、細やかで、色豊かで、雑多で、沢山詰まっていて、わくわくする。魅惑であり過ぎて、くらくらする。その親密さや熱さへの羨望。親密である事の重要さよ。物語るものと親密であるからこそ、その言葉は強靭でしなやかで、気持ちがいい。



楽しみと日々
楽しみと日々
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金井 美恵子 金井 久美子
平凡社
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