2015年6月22日月曜日

皆川博子『聖女の島』『光の廃墟』

『聖女の島』
幼き自らを享受する安らぎもないまま、退廃の毒の、淫靡な甘さに魅入られ、自ずから沈み込むよう、悪に身を染める少女たち。その不幸な歪みを正すための施設において、閉ざされた孤島において、少女たちを見つめる二つの視線。同じ場所を捉えていながら、二つの視線は、まるで正反対とも言うべき、異なる姿を映す。惨劇の陰を秘する記憶の捩れ、じわじわと巧みに煽られていく、残酷な結末への期待。独善的な言動に隠された真意。過去を清算し、未だ消えぬ深い傷を癒す為に挑んだ難事。過去の重圧と、偶然思い知った性の悦び、美しいものを汚すことで得られる悦びによって、徐々に壊れて行くものの慟哭。自らが招いた結末は、極めて皮肉な破滅。醜く、痛ましい叫び、黒々としたその残滓が、鮮烈に残る。

『光の廃墟』
触れられずにいた痛み。残酷な隔たりを思うことで保っていた均衡。失い、溢れ出したのは、自らの内で、密やかにわだかまり続けていたものたち。届かぬ愛を、尽きぬ孤独を、埋めるよう。冷たく、甘やかな死の誘惑より、逃れるよう。縋り、貪る、悦楽。甘えのない過酷な生の脈動と輝きにこそ、惹かれる心。読み解かれて行く謎、凄惨な過去に込み上がる哀しみ、求め、飢え続けていたもののわからなさ、いびつさに募る憤り。沈み込むよう離れぬ、重く、暗い愛を引きずり歩む生、ただ、まとう苦しみの厳しさを、瞼を差す光の強さを、思う。



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