自らの内に在り、魂に刻まれた膨大な時が蠢く、世界について。現実を生きて行く上で、気にもせずにいる、或いは、触れずにやり過ごすことを、無意識の内に選択してしまっている、不思議な感覚について。そこに宿る恐ろしささえ包み込み、言葉は流麗に、惑い、違和感に立ち止まりかけた心を、穏やかな幸福へと、導いて行く。
自らの内に広がる闇を、闇より吹き荒ぶ風を、陰影に身を委ねるほかのない、孤独な生を、闇に寄り添うものの魔を、危うく、凄艶な美しさを、残酷に、冷徹に、描き続けて来た作者の、巡り会えた一つの答え、魂の救済と言うべき物語であったように思う。