読書と感想と記録
個人的な読書の感想と記録。金井美恵子のファン。
2015年6月22日月曜日
皆川博子『聖餐城』
物語の中核を担う主人公アディの活躍は勿論、四方に広がる枝葉、その一つ一つにさえ活き活きと血は流れ、煌めく魂が宿る。永く、過酷な戦いが見せた野望、暴かれた多くの矛盾、交わらぬそれぞれの思惑を巡らせ合い、謀り合う者たちの、生と死が織り成す壮大な物語。美しさと醜悪さ、気高さと卑劣さ、清廉さと欲深さ、素朴さと残忍さ…凄惨な戦いは、人間が秘めたあらゆる矛盾を、容赦なく明らかにする。
それぞれ違う輝きを放つ者たちの、その胸に宿る思いと野望が濃密に絡み合う重厚さ。様々に変化する表情を捉えた言葉の鮮やかさ。友として、主として、憎めない腐れ縁として、或いは強大な敵として、主人公が駆け抜けた時間を鮮やかに彩る者たちの存在。いつの間にか親しみさえ感じていた彼等の、その凄絶な生と死を見届け終えた瞬間に広がる寂しさと、静かな喜び。自らに迸る魅力を失うことなく最後まで走り抜いた物語、読後全身を襲う疲労感は、愉悦に満ち、存外に心地よく、心は熱く、満たされる。
聖餐城 (光文社文庫)
posted with
amazlet
at 15.06.22
皆川 博子
光文社
売り上げランキング: 203,458
Amazon.co.jpで詳細を見る
次の投稿
前の投稿
ホーム