2015年6月22日月曜日

皆川博子『瀧夜叉』

朝廷に反旗を翻した東西の巨魁。彼等の間に結ばれた盟約の下に集い、共に戦い続けたものたちの、絡み合う生の煌めき。血飛沫の中、艶美に咲き誇る彼等を襲うのは、残酷な命運。だがそれでもなお、彼等は自らの胸に宿った思いを遂げるため、懸命に生を走り続ける。
身に受けた屈辱、憎悪の形を知らせるよう生まれ出でた、おぞましき肉を喰らい、鬼と化すもの。自らの罪と怒りに身を焦がし、狂気の闇へと落ちて行くもの。決して分かち合うことの出来ない孤独を抱え、在るべき場所を目指し、彷徨うもの。凄惨な戦いの中、交錯するいくつもの生。肉体を重ね合う行為にも似た、苛烈な生の交歓。生じる衝動さえ、性愛より零れ落ちる悦楽に酷似したもの。妖しく、惨たらしく、艶やかに。彼等の生を収束に導いた存在、殉じたその凄絶な愛は炎となり、甘やかに心を覆う。



瀧夜叉 (文春文庫)
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皆川 博子
文藝春秋
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