書くこと、言葉を用いること、作り上げること。真実を、真実でないものを。自らの内に育ち、自らの内より出でたものでさえ、自らを離れてしまえばもう、捕らえることは難しい。言葉を紡ぐほかない。差異を、隙間を、なくすために。忠実に、再現するために。或いは、差異より生まれ落ちるであろう別のなにかへと、繋ぐために。確かに在り、舞い続ける透明なそれを、捕らえるために。緻密に、直向きに、編み上げていくほかない。書くこと、作り上げること、繊細な刺繍を施すよう、自らを、誰かを離れ、舞う、とらえ難いそれを、捕らえるための道具を、隙間なく編み上げるよう、言葉を駆使する試みの、難しさ、厄介さ、面白さ、愉しさ…いつまでも続いて行く、果てしなさ。不毛でさえありながら、冷たい響きの役割を言葉に課しさえしながら、そこに感じるのは熱。自らに引き寄せ、この先も幾度となく反芻してしまうのだろうと、不可思議で、当然の予感に満たされる。
円城 塔
講談社 (2015-01-15)
売り上げランキング: 85,006