2015年6月14日日曜日

円城塔『Boy’s Surface』『これはペンです』

『Boy’s Surface』
足場のない空間を漂い続けているかのよう。ひどく不安で、心細くて、だがどこか心地よい。次々と現れる言葉は皆、するりと指先をすり抜け、決して掴むことが出来ない。ほのかに残るのは、冷えた金属のそれにも似た、馴染みにくい、硬質の手触りだけ。散りばめられた遊び心をうまく飲み込めないことへの引け目、劣等感を抱えたまま、それでもなお、硬質な言葉の冷淡さの中に潜む熱に、見た目に反して驚くほどの破壊力を秘めた手法の奇抜さに、同じ場所を延々と掘り進めているかのような、不毛なひたむきさに、心惹かれる。

『これはペンです』
奇抜で突拍子もない様々な手法をもって、書くという行為にまつわる既存のイメージを、冷静に、そして淡々と、壊しにかかってくる。受け入れ難い遊び心に誘われる焦りと戸惑い。身体が咀嚼することを拒んでいるかのような違和感。ひどく落ち着かない。だが当然のように、当たり前のこととして抱いていたイメージの不確かさを指摘する、その手法のユニークさ、そしてその辟易してしまうほどに執拗な追い込み方に感じるひたむきさはとても魅力的。珍味異触(ガムのよう)無臭、食べ辛い作品であった。


硬い壁面に穴を開け、そこばかりを延々と掘り進めていくことにも似た、不毛なひたむきさ。ただひたすらにその場で石を積み上げていくことにも似た、危うさ。物の形がはっきりと見えず、ぼやけてしまうときのそれに似た、もどかしさ。それらをぼんやりと感じたまま、快不快の間を漂う。



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