2015年12月20日日曜日

森茉莉『マリアのうぬぼれ鏡』

森茉莉語録。テーマに沿って、その多くの言葉、耽るべき饒舌の内より美味しい所を抜粋。短くともそれだけで人を虜にし得る魅力を備えたものばかり。特に〈小説家〉と言う言葉のもとに編み込まれた文章の数々が印象深い。小説観。自身の思う最上。試み続けるもの。わかりやすく、だが大変に困難であるそのやり方。自分はそのやり方で書かれたものが読みたくて、小説を読む。森茉莉を読む。森茉莉が森茉莉である所以こそが、自分が森茉莉を好きである所以。
甘美であり、蠱惑的であると感じる事と同時に、やはり森茉莉は聡い人なのであるなあと思う。淡く厚い靄、妖艶に蕩ける情景、たゆたう夢想。継ぎ目を持たぬしたたかさ。怒りより醜さや硬さを排する辺りなど。その胸中に燻らせ続けていたはずの生き辛さ。偽りや抑圧に塗れた世の中への憤り。だがそう言った憤懣や哀しみの類でさえ、醜く歪む事なく熟れ、豊かに息づいている。歯痒さや憂い、嘆きを象る言葉でさえ、芳醇に香り続けている。凄いと思う、聡いと思う。また狡いとも思う。

あとは自分の好きな作家がこれまた自分の好きな作家を褒めている事が兎に角嬉しい不思議。森茉莉が獅子文六を褒めている。嬉しい。



マリアのうぬぼれ鏡 (ちくま文庫)
森 茉莉
筑摩書房
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