甘美であり、蠱惑的であると感じる事と同時に、やはり森茉莉は聡い人なのであるなあと思う。淡く厚い靄、妖艶に蕩ける情景、たゆたう夢想。継ぎ目を持たぬしたたかさ。怒りより醜さや硬さを排する辺りなど。その胸中に燻らせ続けていたはずの生き辛さ。偽りや抑圧に塗れた世の中への憤り。だがそう言った憤懣や哀しみの類でさえ、醜く歪む事なく熟れ、豊かに息づいている。歯痒さや憂い、嘆きを象る言葉でさえ、芳醇に香り続けている。凄いと思う、聡いと思う。また狡いとも思う。
あとは自分の好きな作家がこれまた自分の好きな作家を褒めている事が兎に角嬉しい不思議。森茉莉が獅子文六を褒めている。嬉しい。