2016年5月27日金曜日

村田喜代子『夜のヴィーナス』

表題作がいい。祝福を。そのすべてを(内側にギッシリと詰まったもの達をも含むそのすべてを)愛おしいと肯定し、美しいと感嘆する本心に。選び、評し、比べたがる酷薄な視線に今なお悩まされ続ける身にとって、彼の感嘆と肯定は、どれだけ心強く、喜ばしいものである事か。対となる「ウェヌスの増大」もまた清々しい。
「茸類」のみ既読。これはよく覚えていた。とんでもない事。静かに。さも当然のように。日常に紛れ込んだそれ。普通ではなかったと、理解してはいる。けれど一方では、容易に起こり得る事であったと、そうなるべき事であったと、違和感なく受け入れてしまっているような、高ぶりの不可思議さについて。滑らかであるばかりではないために、確かさを持つ日常にあって、明らかに異質な妖しさや艶を放ちながらも、当然の事として溶け込む異常の不可思議さについて。よく覚えていた。



夜のヴィーナス
夜のヴィーナス
posted with amazlet at 16.05.27
村田 喜代子
新潮社
売り上げランキング: 286,099