別巻14『園芸』
なんと言っても室生犀星。大いに庭を語る。大いによしあしを語る。大いにその執心っぷり、その傾倒っぷりがわかる。もう愛が凄い。じめっとしていて、しつこくて、熱い。愛でる、(とんでもなく濃い)熱情を捧ぐ、こだわる。切実さは最早陰湿さに。あとはやはり龍胆寺雄が凄い。サボテン愛。まず語り始める際の立ち位置の意外さ。どれだけサボテンに重きを置いているのかがわかると言うか。深く心を傾け続け、そこに達したのだな、と思う。大変面白い。
別巻16『星座』
津島佑子がいい。未知を紐解き、新たに知り、遠い日の高揚と、懐かしき教えを思い出す。湧き上がる期待。驚きに痛む胸。途端に滲み出る淋しさ。素朴で率直で、どこまでも好ましい。見えたのだと。そして再び見えるようになったのだと。その嬉しさ。淡く静かに満たされる。そして高樹のぶ子が好き。無数にある”一生に一度”。人間の生はあまりにも儚く、ささやかなもの。けれど悪くないと思える。その一瞬に煌めく喜びと優しさを見ると。確かに残るはずのそれを見ると。
別巻55『恋心』
森茉莉の「冬の木」が妙に艶かしくて、甘くて、苦くて、妖しくてよかった。幸田文の「ゆくへ」もいい。身近な人の事。その変化について、或いはその変わらなさ(それがよい時も悪い時もある)について。文さんのお話の中でも、その手のお話は特に残る。特に印象深い。幾度となく思い出す。岡本かの子の恋文は何と魅惑的な。敵わない。岡本かの子には誰も敵わない。天女かと思う。何かこう、遥か高みにいるよう。その豊満さ。その清澄さ。苦しみも、喜びも、残さずに咀嚼し、味わい、蓄え、自分自身の糧と変えて来たもののそれ。溢れ出る色香と輝きもまた、何と濃厚な。