2016年7月30日土曜日

『笙野頼子窯変小説集 時ノアゲアシ取リ』

激変する環境。平穏である事を許さぬかのようなタイミングで起こるトラブルの、その唐突さへの戸惑い。上手くいかなさ。やり辛さ。計画通りではない様相。折り合いを付ける為に要した拘りの事。ジンクス。陳腐化出来ぬもの。簡単な言葉に落とし込む事(感情や感覚の本当の形を見えぬようにし、その脅威より自分を守る為)が出来ぬもの。しようとさえ思わぬようなもの。
途中不安になった。あまりにも静かで。もがいてもいない、抗ってもいない。あまりにも無気力で。あまりにも茫漠としていて。明確な言葉をもって見限られるよりも怖い。そのまますべて手放してしまうのではないか、と思った。あまりにも動きが鈍くて。
けれどようやく、見えるようになって来たのだと。自ずと。意識的に挑んだ結果そうなった、と言うよりも。晒され続ける内、折り合いをつけ続ける内、自然と。徐々に。思わぬ風に。掴めるようになって来たのだと。戻って来てくれてよかった、と不意に浮かぶ。



時ノアゲアシ取リ―笙野頼子窯変小説集
笙野 頼子
朝日新聞社
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