2016年7月25日月曜日

金井美恵子『あかるい部屋のなかで』

水気を含み、湿り、ねっとりと絡みつくように肌を這う緩慢さ。膨らみ、熟れ、じくじくと、ぬめり、気怠く、熱く、煩わしく、淫靡に。汚く、醜く、不快に。溺れる。溺れる事の苦しみと共に。苦しみを自覚する事の出来るその身のままで。甘美であり、不安であり、魅惑的な。饒舌にうまれる口内の粘り気。ざらつき、すべり、繰り返す。絶え間なく。幾度となく。次々と溢れ出る。淀む。こもる。蒸れる。じっとりと汗ばむ。うっとりと魅入る。反芻し続ける。丹念に。残滓さえ貪るように。残滓さえ残らぬように。蕩けてしまうほどに。
堪らない。もう堪らない。身悶えしてしまう類の堪らなさ。金井美恵子を読む時。鮮烈に感じる。堪らなさを。読む事の堪らなさを。息を吐く。眉を寄せ、目をつぶる。本当は叫び出したい。
味も、匂いも、色も。熱さも、冷たさも。湿り気も、渇きも。粘り気も、滑らかさも。快も、不快も。ある。綻びなく、ある。まわり、うねり、すべて混ざる。区切りを持つ姿であった時より、強く感じる。




あかるい部屋のなかで (福武文庫)
金井 美恵子
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