2016年10月21日金曜日

タニス・リー『堕ちたる者の書』

男であり、女であるもの。そのいずれでもないもの。その二つの性を超えたもの。その相克の残酷さより脱したもの。醜悪であり、優美であるもの。苦痛であり、喜悦であるもの。性は囲い。それも酷く矮小な。彼等を前にしては。男に、女に、姿形を自在に変え、そのいずれをも悠然と超えて行く彼等を前にしては。それほどまでに魅惑的である彼等の交歓と破滅の数々。退廃と飛翔の数々。
変化はすべて唐突に訪れる。心傾けるべき予兆などない。猶予などない。何もかもが不意に、けれど当然のような顔をして訪れる。出迎えた方もまたその訪問を意外に思う事はない。滑らかに超えて行く。やがてそうなるとわかっていたかのように。まるで自分自身の意思であるかのように。彼等は毅然と果たし、受け入れ、流麗に超えて行く。



堕ちたる者の書 (パラディスの秘録) (創元推理文庫)
タニス・リー
東京創元社
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