2016年11月12日土曜日

ジュリアン・グラック『アルゴールの城にて』

この掴まるもののなさ。この縋るもののなさ。言葉は時に鋭く、時に緩慢に。不穏を奏で。間隙なく満たし尽くすよう、不穏を重ね。非情なまでに粛然と。自身もまた不穏と化して行くのみであるが故に。それも絶える事なく。静寂にさえ、予兆を孕ませて行き。この遮る事の出来なさ。この立ち戻る事の出来なさ。流れ続ける言葉の強靭な連なりの内にあっては。最早溺れ続けるほかない。怯え、恐れ、期待…言い知れぬ類の、確信めいたものはある、けれど明瞭な輪郭を提示する事が出来ぬ類のそれらを抱き、待ち続けるほかない。必然的な終わりを。

高まって行く。濃さを、重厚さを増して行く。幾層にも重なって行く。満ちて行く。何もない、白にさえ満ちている。静謐にさえ。鳴り響いている。



アルゴールの城にて (岩波文庫)
ジュリアン・グラック
岩波書店
売り上げランキング: 311,711