2017年3月10日金曜日

タニス・リー『黄金の魔獣』

淡く、幸せなお伽話に収まる事を拒むかのように。物語は鮮やかに落ちて行く。夜へ、闇へ。己が身に宿る、数多くの幸福なお伽話の面影を塗り潰すかのように。物語は悠然と誤り続ける。より色濃い、赤を求め、より深い、黒を求め。冷たく、残忍な光を求め。無情にも、不都合にも。ただ不穏だけを選択し続けて行く。
始まりはあまりにも遠く、遥か昔の事であるかのよう。噛み合わず、釣り合わず、その多くが不相応であり、不調和であった関係と交歓の数々。けれど調和こそが、相応である事こそが、破滅と同義であるが故に。歪なままである方がよかったのにと、今では懐かしく思う。物語はどこまでも裏切り続けるが故に。何よりも美しく、免れ得ぬ破滅を目指し。



黄金の魔獣 (ハヤカワ文庫FT)
タニス リー
早川書房
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