2017年5月28日日曜日

倉橋由美子『夢幻の宴』

『酔郷譚』や『シュンポシオン』の心地を思い出す。何一つ不快なものがなく。俗世の矮小さ、猥雑さなどとはまったく無縁の。悠然として美しく、優雅で、豊穣なかの世界を、遥か下方より仰ぎ見ていた際の。心地。喜びと怖れを抱いて至る、陶酔。とろりと甘い毒を飲み干し至る。陶酔を。
あちら側とこちら側を自在に往還する楽しさたるや。その交歓。容易く超える。容易く超え、流麗に興ずる。ほぼ冥界の住人、倉橋由美子の魅力の真髄がここに、と思う。しかしそれ故に際立つのは旅行記(実世界の方の)の簡素さか。な、何て足早な。不快なものを排除し、自身が言葉にする価値を認めたものだけを言葉にした結果、とでも言うべき簡素さ。現実がかくも味気なく、見所の少ない場所である事を示唆するかのような。この簡素さ…。実に倉橋由美子らしい毒。俗世を彷徨う我が身にはよく効く…。



夢幻の宴
夢幻の宴
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倉橋 由美子
講談社
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