2017年7月17日月曜日

倉橋由美子『あたりまえのこと』

とんでもない小説毒本。その毒が私の読書の幅を狭め、読めない本、読みたくない本の量を増やし、読める本、読みたい本、決して多くはない彼等への執着と傾倒をより根深いものにする。
小説を楽しく読むにはまず、読んで楽しくないものを避けることが第一とし、読んでも仕方がない小説、読むのを避けるべき様々な小説を挙げ、それらを粛々と消去して行くやり方。如何につまらないか。如何にくだらないか。如何にまずいか。如何に劣悪であるか。あたりまえを語るのに相応しい鷹揚さと平静さを以て、遥か遠く、異世界の人間を見遣る際の無関心さと冷淡さを以て示した上で。次々と切り捨てて行くやり方。たとえ食わず嫌いの弊に陥ろうとも。つまらないものを読んで時間の無駄をするよりはましであるとの事。吹き出す。結構吹き出す。
すべてはあたりまえのこと…倉橋由美子のような、殿上人と言うか、桃源郷の住人と言うか、遥か高みにおわす、完成形、完全に振り切れ、この上なく整い、定まったような人のあたりまえを知る楽しさたるや。教えて頂く楽しさたるや。「小説の効用」や、〈二流の上程度の娯楽小説は特別の才能のある人でなくても書ける、ということです〉と言う辺り、〈高原の結核療養所のようなところに数年間入ることになった時にはいよいよプルーストが読めます〉など、特に笑う。



あたりまえのこと (朝日文庫)
倉橋 由美子
朝日新聞社
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