2017年7月20日木曜日

多和田葉子『球形時間』

‪気になればいつでもどこでも、言葉を掴み、言葉尻を掴み、いちいち引っ掛かり、伸ばしたり、つついたり、いちいち触って、それを自分が好きか嫌いか、いちいち確かめて、飲み込んだり、早速使ったり、なんか違うと放り投げたりするせいで、全然前に進まない人達ばっかり。見過ごす事も、素通りする事も出来ないせいで。兎に角いちいち立ち止まるせいで。ぐるぐるぐるぐると、諸々しあぐねて、全然前に進まない人達ばっかり。
彼等はいちいち引っ掛かってしまう、どうしても。隠しても隠し切れず、彼等は群れの中にも、流れの中にも、全然紛れ込む事が出来ない。この世界にあっては生き辛さとなる類のそれ。異質さであると分類されてしまいがちな類のそれ。そのせいで悲しい思いをしたり、酷い目にあったり、大いに悩む。ぐるぐるぐるぐると、諸々しあぐねて、大いに悶々する。けれど結局はまた立ち止まってしまう、どうしたって立ち止まってしまう、立ち止まらずにはいられないやるせなさよ…。

なんじゃこりゃ、こんなのもあったのか多和田葉子、と最初は驚いたけれど、読後残ったものを見ればしっかり多和田葉子、紛れもなく多和田葉子であったと思う不思議。



球形時間
球形時間
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多和田 葉子
新潮社
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