2018年1月11日木曜日

高橋たか子『この晩年という時』

〈ここに書いたことすべて、象徴、象徴。〉〈私の書く一つ一つの小説は、一つの象徴だ、とさえ言えるような気がしている。〉
通り抜けた、後。し終えた、謎を解き終えた、後。と言った印象。退いた、と言う。終えた、と言う。人生を。生に在って、けれど遠くにいる。遠くより、見ている。元よりよく見ていた人。他者を。自分自身を。何よりも自分自身の内にあるものを。見尽くそうとしていた人。祈るとは、下降する事。降りて行く事。自分自身の内部に。深みに。奥底へと。自分自身にさえ操れ得ぬ、手出し出来ぬ領域まで。潜って行く事。繰り返し、挑み続けたのだと思う。今はもう、苦しみも、痛みも超え、その果てに辿り着いたものの、何もかもを見尽くし終えたものの、落ち着きがあった。
退いてもなお、し終えてもなお、立ち上って来る思い。自分自身の内に残る、これまで歩んで来た生に残る、言語化しておくべき事。かつての激しさの、貪欲さの、名残りのようなものは確かに、未だ存在していた。知りたいと、わかりたいと渇望する、熱情の名残りのようなものは。けれどあくまでも、今は静かであり、とても穏やか。過去、自らが夢中であったもの達とさえ、すっかり距離が出来てしまった、と言った風。何もかも、すっかり通り越してしまった、と言った風。



この晩年という時
この晩年という時
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高橋 たか子
講談社
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