2018年6月14日木曜日

松山巖『須賀敦子の方へ』

須賀敦子の方へ。その作品と、その生涯と向き合う事で。その足跡を辿り、自らも歩く事で。今一度。須賀敦子の言葉を聴きとるための旅であると言う。まるで対話しているかのよう。須賀敦子本人に、確かめているかのよう。改めて思うのは須賀敦子と言う作家の難しさ。読み始めればいつも容易く、自分は惑わされてしまう。冷静に、何か、僅かでも、確かなものを掴もうと、はじめは挑むのだけれども、すぐに彷徨い込んでしまう。読み終えてしまえばそれこそ、掴めなかったとしても、自分自身の内に残ったものの正体を、明確にはかる事が出来なかったとしても、快く夢を見終えた時のように、いつも満たされてしまっている。
見過ごしてしまっていたものの、読み流してしまっていたものの多い事。しっかりと受け止め切る事が出来ず、取りこぼしてしまっていたものの多い事。思い知る。もっとよく耳を傾けなければならない。もっと見つめ直さなければならない。やはり幾度となく、向き合わなければならない。

須賀敦子の声を聴きとる…。その言葉より。丹念に選び抜かれた言葉の、その一つ一つより。さり気なく配され、巧緻に組み込まれている言葉の、その一つ一つより。その言葉の、内にあるもの。意味するもの。奥底に潜むもの。色合い、重さ。言葉にしたと言う事、言葉にしなかったと言う事。取りこぼしてしまう事のないよう、もっと、出来る限り、近付いて。


須賀敦子の方へ (新潮文庫)
松山 巖
新潮社 (2018-02-28)
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