2018年6月20日水曜日

村田喜代子『尻尾のある星座』

ユーリィ凄まじい…カチカチカチのビューーーン!!の悪夢の毎日。噛むわ暴れるわ、悪行三昧、やりたい放題のラブちゃん地獄。Tシャツはビリビリ破られ、夫婦はズタボロ、全身傷だらけ。真剣で切実で八方塞がりで、申し訳ないけれど、どうしたって笑ってしまう。
困ったり途方に暮れたり挙句絶望したりする気持ちは痛切なものなのだけれども。それでも当然、愛しているから大変だ。絶望も愛も、同時に、一緒くたにある。慌ただしさも平穏も、雑然と、一緒くたにある。でこぼこ、ゴツゴツ、ひっちゃかめっちゃか、時に長閑である村田喜代子の毎日の、そんな当然さが好きだ。
〈つまり、何というか、生きて、動いて、やがて死んでいくものたちのことが気になって仕方ない人間、ということになるだろう。〉 犬、犬、猫、馬、人間、人間。命ある様々なもの達の生き死にについて。生きていると言う事。生きて、動いて、死んで行くと言う事。不可思議であり、雑多であり、複雑であり、面妖であり、時に凄まじい、その様相。起伏も、緩急も、変化も、予告なく、唐突に、当然にあって。ごちゃごちゃと、汚さも、綺麗さも、残酷さも、滑稽さも、諸々混在していて、おっかなかったり、やりきれなかったり、可笑しかったりする。その様相を。大げさにでなく、かと言って、矮小化する風でもなく。自然に、ごく自然な驚きや憤りや喜びや悲しみを以って明らかにする村田喜代子の言葉が、自分は堪らなく好きだ。

「命の池」や「耳と尻尾の長い列」などを読むと特に。繋がっているな、と思う。自分がこれまで読んで来た、村田喜代子の小説の多くと。地続きで繋がっているな、と思う。きっと歩いて行けてしまうな、と思う。


尻尾のある星座
尻尾のある星座
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村田 喜代子
朝日新聞社
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