どう考えても太刀打ち出来る気がしない。対峙できる気がしない。当然も普通も、自分のそれは、そこではまるで通用しない。そんなもの、そこでは何一つ意味を持たない。何一つ価値を持たない。立ち向かえる訳がない。ただ削り取られて行くほかない。
なににもならない。なににもなり得ない。自らの常識や平穏を信ずるものが求めるようなものは、そこにはなにもない。せめてそうあって欲しいと思うようなものは、そこにはなにも。幻想をまとわず、剥き出しとなった人間の、人間という生き物の不気味さ、得体の知れなさ。うんざりとする。
富岡多惠子は何でこんな小説が書けるのだろうと思う。何てものを書くのだ、と思う。こんな、一生忘れられないようなものを。永遠に滞り続けるようなものを。「遠い空」を読んだ時の事を思い出す。「花の風車」がちょうど、自分の好きな富岡多惠子。『逆髪』や『白光』のパサつき、乾き具合、惰性と諦めと饒舌と反抗の艶っぽさ。
富岡 多惠子
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