無数の時間を、瞬間を、情景を、感覚を。無数の物語を。私は生き直し、生き直し続け、生き続ける。物憂くて、ありふれていて、うんざりするほどに、知っている、幾度となく見聞きした事のある、幸福で、不幸で、そのいずれもが痛切な。無数の。息を飲むほどに美しく、艶めかしく、豊かで、繊細で、官能的な。無数の。
やがてまた同じ瞬間と巡り会う喜びのために。その繰り返しのために。身に覚えのある感覚と、かつて生きた事のある時間と、存在していた事のある情景と、再び巡り会う喜びのために。埋もれていた記憶が、再び呼び覚まされる喜び、ずるずると、奥底より引き出されて行く喜びのために。私は読み、読む事で生き直し続ける。無数の私を生き、生き直し、生き続ける。
279ページ目の至福。279ページ目というすべて。