2018年8月4日土曜日

『皆川博子の辺境薔薇館』

美しい、美しい。甘く、妖しく、密やかで、残酷で。厚く、色濃く、凄艶な。あまりにも蠱惑的な。皆川博子の世界。何がいるのか。何が存在しているのか。何が棲んでいるのか。潜むように、隠れるように、静かに息づき、棲息しているもの達。一つ一つ、確かめて行く。一つ一つ、掬い上げ、明らかにして行く。多くのものがいた。毒と、魅惑と化していた。そこには矢川澄子さえいた。確かに矢川澄子がいた。自分は確かにその姿を見た。
短編精華、素晴らしい。やはり自分は読むために、読む喜びのために生きているのだと思える。このまま沈み続けていたい。このまま微睡み続けていたい。このまま浸り続けていたい。自分が溶け出すまで。自分が溶け切るまで。自分もまたその一部と化すまで。この闇の、この沼の、この世界の。一部となるまで。戻りたくないと思う。そこに沈み続ける事の甘美さを知ってしまった為に。身体が願う。このままとどまり続ける事を、このまま悦楽を貪り続ける事を。身体が拒む。浮上を、避けられぬ現実への浮上を。

女王その人の存外な程の可憐さよ。綺麗だ。言葉も、振る舞いも。繊細に煌めいている。自分はこの本を『皆川博子の辺境薔薇館』刊行記念フェア開催中の古書ドリスで購入し、直筆サイン入りのカードを手に入れ、編集の方のお話(インタビューにあった、『アルモニカ・ディアボリカ』の続編の事や、その次の作品の題材がハンザ同盟である事など、調べるのが楽しいみたいで、と言うなんとも嬉しい情報も)を聞くと言う僥倖にも恵まれ、そう言った意味でも忘れ難く、この本が自分にとって特別な一冊である事は疑いようがない。


皆川博子の辺境薔薇館: Fragments of Hiroko Minagawa
皆川博子 綾辻行人 有栖川有栖 石井千湖 井上雅彦 伊豫田晃一 宇野亞喜良 岡田嘉夫 恩田陸 佳嶋 北原尚彦 北村薫 日下三蔵 久世光彦 倉田淳 黒田夏子 小森収 近藤史恵 今野裕一 齋藤愼爾 坂野公一 佐藤亜紀 篠田節子 篠田真由美 新保博久 須賀しのぶ 千街晶之 竹本健治 建石修志 垂野創一郎 千早茜 中川多理 西崎憲 服部まゆみ 鳩山郁子 東雅夫 深緑野分 松田青子 宮木あや子 門賀美央子 柳川貴代 山科理絵 山田正紀 山本ゆり繪 島村理麻 光森優子 小口稔 鈴木一人 小塚麻衣子 古市怜子 戸井武史 秋月透馬
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