2018年9月8日土曜日

山尾悠子『飛ぶ孔雀』

幾つもの場所より見た。幾人もの位置より見た。幾つもの光景を、記憶を、理を見た。異変を、変貌を、その片鱗を見た。自分が目撃したすべて。通り過ぎて来たすべて。どうにか言葉にしようと試みてはみるものの、試みるたび途方に暮れる。網羅し尽くせぬが故に。その術を持たぬが故に。
本に打ちのめされる。恍惚のまま敗北する。恍惚のまま囚われる。服従する。自ら捕囚となる。手立てを失う。掴み集めようと挑む意識さえいつしか失う。ただ連れて行かれるのみ。ただ連れ去られて行くのみ。予告なく。宣告なく。立ち止まる事なく。振り返る事なく。どこへでも。どこまでも。
あまりにも膨大であったように思う。恐らくは、自分が見て来たものたちさえ、ほんの一部分に過ぎないのではないか。本当はもっと、広がっている。もっと、堆積している。もっと、存在している。あんなにも見聞きし、感じ、彷徨い、往来し、生きたのにも関わらず。見尽くす事など出来ないと感じている。
素晴らしい飛翔。素晴らしい創造。素晴らしい破壊。素晴らしい終幕。世界そのものを読むと言う感覚。その理ごと、その絡繰りごと、そこに埋もれる無数の記憶と光景ごと世界そのものを読むと言う感覚。自分の読む言葉が世界そのものであると言う素晴らしさ。



飛ぶ孔雀
飛ぶ孔雀
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山尾 悠子
文藝春秋
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