2018年9月15日土曜日

タニス・リー『ゴルゴン 幻獣夜話』再読の記録

それらは紛れ込んでいる。それらは潜んでいる。それらは原始より存在している。それらは悠久に存在している。それらは自在に姿を変える。それらは夜に煌めく。それらは闇に映える。それらは容易く入り込む。それらは容易く奪う。それらは容易く殺す。それらは容易く人を魅了する。それらは容易く人を狂わせる。それらは容易く人を操る。それらは臆する事がない。それらは従う事がない。それらは飼い慣らされる事がない。それらは決して滅び去る事がない。
何ておぞましくて、醜悪な。何て美しくて、蠱惑的な。何て悲しくて、深遠な。出会ってしまえばもう、戻る事は出来ない。逃げ出す事は出来ない。抗うほかない。愚かしくても、惨めでも、滑稽でも。懸命に。対峙するほかない。深入りする前に。交わる前に。溺れてしまう前に。残酷で甘美な破滅へと達する前に。落ちてしまう前に。
鮮やかな白。鮮やかな赤。艶やかな黒。そのためにすべが沈黙するような。壮絶な美しさ。

タニス・リーの世界は残酷で、艶やかで、美しくて、深遠で、自在で、官能的で、そして何だか妙に律儀な所があって好き。幻想的な物語に不似合いな程の、けれど物語への陶酔を妨げる事はないと言う、不思議な律儀さ。防水性の包みでくるんであった朝食とか…。



ゴルゴン―幻獣夜話 (ハヤカワ文庫FT)
タニス リー
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