2018年10月18日木曜日

金井美恵子『ピクニック、その他の短篇』

幸せだ。恐ろしいくらいに。息苦しいくらいに。叫び出したいくらいに。あまりにも。幸せであると感じる。迷宮のよう。出口のない。果てのない。迷宮であるかのよう。間隙なく迷い続けると言う至福。触り、聞き、目撃し、味わい、嗅ぎ、感じ、繰り返し生きると言う至福。幾度となく生き直すと言う至福。再び巡り会う事で、思い出すと言う至福。
くらくらと、めまいがし、ゆらめいてしまい、微睡み、痺れ、うっとりとし、貪り尽くそうとし、享受し尽くそうとし、息苦しくなり、衝動を、悶え、叫び出したいと求める、このまま倒れこみたいと求める衝動を、目をつむり、息を吐き、堪える。生き直す至福。金井美恵子の言葉によって。体感し、生き直す事の。無数の物語を、甘美で、艶かしくて、物憂げで、扇情的で、退屈で、陳腐で、深刻で、魅惑的で、ありふれていて、見覚えのある、聞き覚えのある、幾度となく感じた覚えのある、無数の物語を。無数の情景を。無数のわたしを。金井美恵子の言葉によって。思い出し、今一度生き直す事の至福。
金井美恵子を読む事は、恐ろしい。幸福過ぎて、恐ろしい。素晴らし過ぎて、恐ろしい。立ち上って来る、体感する、繰り返し生きる事となる感覚の、物語の、時間の、情景の、美しい事、艶かしい事、重厚である事、深遠である事、繊細である事、綿密である事、快い事、不快である事、醜悪である事、陳腐である事、汚い事、眩い事、薄暗い事、妖しい事、湿っぽい事、滑らかである事、柔らかである事。その滞留と循環の迷宮。



ピクニック、その他の短篇 (講談社文芸文庫)
金井 美恵子
講談社
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