自分もよく知っている、見聞きしたりかつて体験したり生きたりしてそれなりに知っている諸々を、ずるずると引き出されながら読む。不意に思い出す事の決まりの悪さや快さと言った事どもと一緒に読む。吹き出したりげらげら笑ったりしながら、楽しんで読む。金井美恵子のその、チョイスの絶妙さが自分は好き過ぎる。細やかさが好き過ぎる。その絶妙さ、繊細さ、緻密さ、的確さによって、すべては立ち上って来るのだ。
誰であってもおかしくない人達。自分の知っている誰かであってもおかしくない。特定の誰か、などではなく、誰でも、と言うか、誰の事でもあるような人達。誰のものであってもおかしくない諸々。どこかで読んでいるかもしれない文章。どこかで読んでいてもおかしくない。読んだ事があるような気のする。誰が書いたものであってもおかしくない文章。名文。名文でない文。明らかに読んだ事のある文章。明らかに自分がかつて至福として読んだ文章。もう楽しくて仕方がない。
金井 美恵子
河出書房新社
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