2019年8月31日土曜日

金井美恵子『昔のミセス』楽しい再読の記録

華やかで、綺麗で、上質で、優美で、細かで、しなやかで、柔らかくて、美味しくて、楽しくて、好ましくて、至福。かつて金井美恵子の小説の中で見たもの達…。道具類、生地など、素材、服、靴、装飾品、家具、住居、部屋、各種店、料理、絵、写真、映像、言説、文章…。それが身近に、普通にある事に対して、不思議さや羨ましさを覚えたような。金井美恵子の小説の中で、そこかしこに、当然のように存在していて、置かれていたり、使われていたり、着用されていたり、消費されていたりしたもの達…。沢山詰まっている。人をも当然含む、あらゆるものが。金井美恵子の小説の中で、気怠げに、物憂げに、退屈そうに、或いはうきうきと、楽しげに、満更でもなさそうに、喋ったり、遊んだり、働いたり、思いあぐねたり、眠ったり、夢を見たり、家事をしたり、恋愛をしたり、読んだり、書いたり、出掛けたり、観たり、着飾ったりしていた、彼女達をも含む、そう言った、あらゆるもの達が。金井美恵子の小説を、文章を読み、読む事で体感し、忘れてはまた読み直す事で思い出し、幾度となくその情景や時間や感覚を生きて、生き直した自分にとってもまた近しく、馴染み深いものとなりつつあるそれら…。石井桃子や森茉莉や、トラーちゃんをも含む、あらゆるそれらが、ここにはあって。今一度、改めて触れる至福。今一度そのよさを、快さを感じ、思い出し、思い知ると言う至福。
親密さへの羨望と感嘆。そう言った、かつて自らのまわりに、当然のように、そこここに存在しており、触れたり、使ったり、関わったりしていた為に、よく覚えているし、知ってもいる、と言うような、ものや人達と、金井美恵子の親密さが、自分にはとても羨ましく、また重要なものであるように思える。その細かで繊細な親密さ…。自らにとって、親密な快であり好きであり不快であり嫌いである、ものや人達を語り、再現する、金井美恵子のあの、豊かでしなやかで強靭で鋭敏で、精緻な言葉を読む事で、自分もまたその快不快と言った感覚を体感する事が出来るのであるし、それらの存在していた時間を、自分は生き直す事さえ出来るのだ。


昔のミセス
昔のミセス
posted with amazlet at 19.08.31
金井 美恵子
幻戯書房
売り上げランキング: 581,651