2019年10月3日木曜日

佐藤亜紀『天使』再読の記録

その感覚を読む。ジェルジュを、読む。その感覚を以って、生き抜き、戦い、世界を見る…その様を、彼の見る、彼の生きる、世界を読む。研ぎ澄まし、広げ、飛ばし、探り、読み取り、ねじ込み、消し去り、こじ開け、隠し、抑制し、解き放ち、抗い、触れ、愛撫する、その感覚を。或いは探られ、読み取られ、暴かれ、こじ開けられ、殴られ、痛めつけられ、傷つけられ、押さえつけられ、触れられ、慰撫される、その感覚を、読む。感覚を以って交わり、通じ合う、その様を。直に。表層的なものではなく、説明めいたものでもなく、感覚それ自体を。憤りも、焦りも、熱情も、直に。
鮮烈に感じる。複雑で、止めようがなくて、物足りなくて、呆気なくて、醜悪で、残酷で、愚かしい、世界も、戦いも、生も、死も。刻み込まれるよう、鋭く伝わって来る。直に読むが故に。混沌具合も、泥沼具合も、錯綜具合も、絶望的である事も、胸糞の悪さも、紐解けなさも、やり合う相手の強大さも、痛切に感じる。痛切にわかる。わかるようになっている。鋭敏で饒舌な感覚によって。説かれるよりも鮮明に映る。
感覚を象る言葉の濃さ。その感覚を読み、感じればわかる、やり口の華麗さ。作り上げられた世界の巧緻さ、隙のなさ。素晴らしいとしかいいようがない。なにものにも妨げられる事のない、極上の楽しさ。終始乗り続ける。素晴らしき疾走。素晴らしき読書体験。当然のごとく『雲雀』へ。



天使 (文春文庫)
天使 (文春文庫)
posted with amazlet at 19.10.03
佐藤 亜紀
文藝春秋
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