2019年11月2日土曜日

マルセル・シュオブ『黄金仮面の王』

重厚な彩色。光と闇の鮮やかな事。陰影は深く、多くを潜ませ、底が知れない。何よりもその情景の、光景の、画の、美しさにとらわれる。魅了される。言葉によって照らし出される、深遠な幾つもの言葉によって、厚く、濃く、薄く、淡く、幾重にも塗り重ねられて行く事で、浮かび上がり、明らかとなる、その様相の、その真実の。美しさに溺れる。おぞましく、不気味に、陰鬱に。或いは、明るく、眩く、輝かしく。言葉によって、幾重にも塗り重ねられた、光景の。不穏を含み、残酷さを含み、悲哀を含み、脆さを含み、数多の誘惑を含み。暗がりより浮き出で、映し出され、佇み、広がり、迫り来る破滅の、恐怖の、一幕の。その美しさに。うっとりと、見惚れる。
言葉は緩慢に、或いは急速に彩り、映し出す。生を、死を。悲しみを、終焉を。不条理で、唐突で、哀れな、そのすべての光景を。柔らかに、美しく、豊かに塗り重ね。鮮烈に映し出す。「小児十字軍」、無垢で痛ましく、清澄な煌めきの愛おしさ、悲しさ。酷く、儚く、痛切で、特に忘れ難い。

山尾悠子や皆川博子の愛する世界の深遠さ。多田智満子訳の『少年十字軍』も欲しい…。



黄金仮面の王―シュオブ短篇選集 (1984年) (フランス世紀末文学叢書〈2〉)
マルセル・シュオブ
国書刊行会
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