決して掴む事が出来ぬそれら。決して証明する事が出来ぬそれら。それぞれの内に残る光景を、感覚を持ち寄り、確かめようと、補完し合おうと試みれば試みるほど、正しさを失い、明瞭さを失い、順序を失い、けれどそのために、混ざり合い、境目を失ったために、かえって色濃く、強かに、確かなものになって行くそれら。不可思議で、綺麗で、とても愛おしい。
世界の、時間の不確かさを。夢の、今の、記憶の絡まり合い、もつれ合い、混ざり合う様を。ほどくよう、紐解いて行くよう、明らかにする言葉の心地よさ。柔らかで、繊細で。淡く、ほのかで。やがて滲み出し、溢れ、肌をつたい、軽く、静かに触れ、消え行く言葉の。かすかに残る、その痕跡の。心地よさ、清澄さ。
朝吹 真理子
新潮社 (2013-07-27)
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