その豊かで繊細で強靭な言葉によって。或いは、そこここに存在し、とっ散らかり、蔓延っている、数多の可笑しな言説を、恐ろしく的確に引用し続ける事で。金井美恵子は思い知らせる。明らかにする。あらゆる愚を。あらゆる違和感の正体を。もうどうやっても言い逃れ出来ないぐらい、鮮明に。明らかにしてしまい、わからせる。
『アカシア騎士団』や『兎』の迷宮感、永遠に彷徨し続ける不毛さや熱さや重さや喜びや幸福感を呼び覚まされ、うっとりとする。書くと言う事。読むと言う事。その終わりのなさ、尽きる事のなさ…。
若い頃の金井美恵子…。気怠げで物憂げで、けれど鋭利で敏感ではしっこくて挑発的で不都合で聡くて冴えていて、とてもいい。自らと親密なもの、自らの親しむ美や快や楽しみを語る際の熱っぽさ。いつの時代も金井美恵子は素晴らしく、至福であり続ける。
澁澤龍彦や大岡昇平や石川淳や中上健次を、悼むのでなく、どういう人であったか、自らにとって、どのような人であったか、どれだけよくて、おかしくて、変わっていて、魅力的で、好きであったかを物語る金井美恵子の文章が好きだ。
金井 美恵子
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