2019年12月18日水曜日

多和田葉子『きつね月』

思わぬ方へ進む。何もない方へ。そちらには何もないと、それまで信じて疑った事もないような方へ。ありなんだ、と思う。いいんだ、と思う。そっちへ進んで。そんな所にも行けたんだ、と思う。あるんだ、と思う。言葉と言葉の間。連なりの間。形に引っ掛かり、音に引っ掛かり。いちいち注視して。落ちてみる。掘り進めてみる。突き進んでみる。意味を外れ、決まりを外れ。自在に、一心不乱に。進む方へ、驚きながら、ついて行く。ふわふわと、運ばれて行く。
夢の中であるかのような夢中さ、迷いのなさ、脈絡のなさ、集中力、手当たり次第具合、取り合わせの奔放さ加減。そこにあるもの、目に入るもの、全部。気にする、気になる、手に取ってみる、解体してみてる、組み合わせてみる。兎に角素通りせずに。平素ないような組み合わせばかり。段々疑わしくなって来る。"平素"も、"当然"も。自分のそれが。けれど言葉はこちらの不安など、気にもせず、意にも介さず、平然としている。平然と、見知らぬ姿でいる。見知らぬ姿で、見知らぬ場所にいて、見知らぬ組み込まれ方、見知らぬ配され方をしていて、しかも平然と、馴染んでいる。こちらも驚きつつ、戸惑いつつ、酔いそうになりつつ、目からウロコ、開拓され、連れて行かれるまま、楽しむほかない。



きつね月
きつね月
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多和田 葉子
新書館
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