何という素朴さ、淡さ、澄みやかさ。小説なり随筆なりのあの偏執狂めいた視線と手のじっとりと絡み付くような粘っこさと陰湿さと執拗さはいずこへ…。自分も〈さらりとしている〉と感じた類。犀星の小説の持つ粘着性と言うか、ぬめぬめと湿ったようなあの執拗さはここにはないように思われる。あんずの句が好きだ。〈あまさ柔らかさ杏の日のぬくみ〉〈あんずあまさうなひとはねむさうな〉〈あんずほたほたになり落ちにけり〉…小説と同じ手で書かれたものであることだけは確かであると、あんずの句によって何となく思う。自然物との静かな交歓と言った幹事。