2022年12月31日土曜日

ジュリアン・グラック『異国の女に捧ぐ散文』

不在より生まれ、不在より放たれる〈君〉を希求する言葉が、〈君〉を、或いはその存在そのものであるかのような世界を、愛を、より儚く、より美しく、より壮麗な、極致めいたところまで高めて行く。陽光と夜の闇、温かさと冷たさ、甘やかな快楽と激痛、充足と欠如、多幸感と孤独、呼びかけること、誘うこと、想起すること、欲望すること…ただ一つの方向からでは到底語り尽くすことが出来ないと言うかのように、絶えず移ろい行くものを、その移ろうさまを懸命に捉え続けようとするかのように、言葉はあらゆる角度から世界を、〈君〉を映し出す。例え真逆の性質を持つもの同士でさえ、相反することなく、互いに汚し合うことなく、密やかに、優美に、燦めくようにして射し込み、降り注ぎ、響き渡り、それはどこまでも澄んでいる。硬く白白と輝いて、透き通っている。 
繊細に、繊細に、飾るようにして、包むようにして、捧げられる言葉。言葉が〈彼方〉へと連れて行く。言葉が〈彼方〉へと至らせる。言葉が映し出すそれは〈彼方〉でしか存在し得ないものだ。偏愛の暗さと熱情を以って愛する一冊。