2022年12月29日木曜日

『武田百合子対談集』おしゃべりからおしゃべりへ

金井姉妹のおしゃべりから次は武田百合子の言葉へ。帯にはエッセイとは異なる新たな一面がかいま見られるとあって、それも確かにありはするのだけれども、ここで見られるのはむしろエッセイと地続きの頭のよさと感性であろうと思う。〈百合子さんは暴力的なまでに知的だ〉という金井美恵子の言葉はまったく正しい。
〈あたしは足を投げ出しちゃって、ネコが来るとかわいがっちゃったりして…。〉〈武田のほうも入歯なんかを出しては〉〈こう、出したり入れたり、嘗めてみてはパーッと投げ出したりするし、そうかと思うとこんどはうんこに行ってみたり、あっちこっち見廻したり〉…口述筆記の光景であるとは言え、書くという行為がまさしく生活のなかで行われていて、その生活する身体で行われているというか、本当に動いて暮して行きつ戻りつためらいつつ迷いつつ横道にそれながら進められて行くことに、グッと来てしまう。それだけが外にあって別、ということではないのだ。書くという行為が行われて行くことの生々しさ。深沢七郎が〈どこにも口述筆記の形跡がない〉と言うのも然もありなん、このようにして書かれたからであろうと。 しかし武田泰淳がキューピーを深沢七郎にあげたいと言って百合子さんがキューピーのおりんさんを作って本当に深沢七郎に贈るエピソードは何度読んでもびっくりする。何というかあまりにも、あまりにもこの三人であることを物語りすぎているようで。目の当たりにして毎回圧倒されてしまうのだった。