2023年7月2日日曜日

ハン・ガン『すべての、白いものたちの』

白、すべての白いもの、〈ひたすら清潔な〉それではなく、〈生と死の寂しさをこもごもたたえた〉白…生と死の哀しみを含んで、そのあわいにあって、こんなにも美しい。贈るための、捧ぐための言葉。研ぎ澄まされて厳しく、儚く、極限めいて行く。目を背けるのではなく、包み隠すのではなく、生きてみること。生きてみせること。〈汚されても、汚れてもなお、白いもの〉たち…〈私たちの中の、割れることも汚されることもない、どうあっても損なわれることのない部分〉を信じることから、この祈りにも似た小説が書きはじめられているのだということ。
破壊と復元。鎮魂と再生。とても静かだ。沈黙を凝縮して白く、静謐で美しい。静謐そのもののように美しい。恢復はこのように静謐の中でこそ、白く美しい静謐の中でこそ、辿り着くことが出来るのだろう。余白に沈殿するもの。余白は沈黙を含み、沈黙に沈殿する語られることのない無数の言葉を含み、張り詰めている。ふるえる言葉。ふるえるようにして空白を満たして行く言葉。余白を含んで研ぎ澄まされていると感じる。厳しく、儚く、極限めいて行くと感じる。