2015年6月27日土曜日

日本の名随筆98 『悪』

津島佑子「”悪徳の喜び”」が随分可愛らしい。書店への傾倒。夢のような光景に受けた衝撃を、未だ覚えている。ささやかでありながら、求めても求めてもなお、尽きることのない豊かさと、費やして費やしてなお、離れ難い茫洋さを備えた喜び。密やかであること、後ろ暗さを伴うことで、書店という場所と、本を選び、本を読むという行為への耽溺はより深まる…と。背徳的な喜びを得るための、耽溺の対象が書店、そして読書である辺りが何だか可愛らしく思え、またそれを”悪徳の喜び”と称してしまう、その切実さ、深刻さもわかる。
武田泰淳の「悪徳について」もまた随分面白い。『快楽』に充満していたむわむわ感を思い出す。色々と渦巻くほどぐるぐる考えては、濁って厚みを増したそこ。打破しようとする訳でもなく、清浄化しようとする訳でもなく、むしろ好んで漂い続けているような。”素朴であること”をうまい具合に用い、思いをあちこち巡らせ、時折意外なほど真っ当なことを言う辺りが可笑しくて、妙に好ましい。

河野多惠子編とのことで購入。尾辻克彦「手づくり犯罪」、大佛次郎「泥棒の弁護」(これは自らの描いた泥棒たちを取り上げた愛ある弁護であり、大変お得な気持ちになった)など印象深い。不意に覚えた”不気味さ”を捉える河野多惠子の言葉…いつも不可思議な高揚感を得る。


悪 (日本の名随筆)
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