だがその一方で、死へと向かう多くのものたちを見送り、また、多くの情死を見届けてきた女性の言葉より浮かび上がる心中は、惨たらしく、稚拙な浅はかさを孕んだもの。情死したものたちの姿と、自らが味わった地獄のような忙しさ、そして、彼等の為に作った料理の記憶が、彼女の胸中において、深く結び付いていることの生々しさ。死と食、ひどく素朴なものでありながら、不穏な艶めかしさを帯びた連想は、情死というものへの不快感を煽るような、淡い幻想を打ち破るような、凄みとなる。人間のどうしようもなさを見つめ続けたが故に、自らも”地獄”に触れた過去を持つが故に、彼等を見遣る彼女の思いは、鮮烈な印象を残す。
甘く、密やかな憧憬と、冷たくも、優しい瞳。交錯する視点、それぞれの思い描く様相の差異が、心中という最期を、哀しく、愚かしく、けれど、どこか愛おしさを感じずにはいられないものとして、彩っているように思う。