死者を過去に。憤りを、憎しみを淡い陰に。決して昇華させはしない。母親というものの、その存在の重さから逃れようと、娘は家を飛び出した。離れてなお、目を背けてなお、つきまとう、母の痛み。近づくことさえ躊躇われるほどに、静かに、陰鬱に、在り続ける葎の家。だが、自らもまた、母親になることを選んだ時、男に対する執着、性愛への貪欲さはあれど、父親という存在を要さぬまま、自らと子どもの間に、父親という存在を必要としない自らのまま、母親になろうとした時、母の与える痛みは、自身にとって、快い慰撫へと変わっていた。
それは、逃げ出さず、佇み続ける母への、苦しみより、傷口より目を逸らすことを知らぬ、母への共鳴か。棘が刺さる痛みこそ、何よりも心地よい安堵。甘さのない救い、だがその不器用なひたむきさにこそ、心惹かれる。