卓越した知恵を持つが故に、聡明過ぎるが故に、満たされることのない、虚しさを抱えた、女性たちの物語。先を、何もかもを見通し、わかってしまうからこそ、愛を得ることも、喜びを噛みしめることも、安堵で心潤すことも、出来はしない。その言葉が、その振る舞いが、理解出来ぬと、時に疎んじられ、時にその存在自体が、まるで、恐怖そのものであるかのように、遠ざけられ、悪意を、畏怖を、好奇を宿す人々の目に、晒され続けた女性たちの悲哀。遣る瀬無い孤独、諦めに渇き、だが、それでも決して、崩れることのない強さを持つ。だからこそ、哀しい。それは助けさえ要さぬ強さ、孤独で在り続けるための強さ。その強さは憐憫さえ跳ね除け、だからこそ、哀しく、美しい。
「もの喰う女」の記録
明快ないやらしさ。食べたいと、素直に欲し、美味しそうに、幸せそうに、食す。際限のない貪欲さで。情欲を、愛しさをそそられ、自らもまた、欲し、食らう。女は衒いもなく、打算もなく、ただ純粋に、愉悦を求める魂に従うよう。湧き上がる衝動に従うよう。男は食す、その邪気のなさが煽る、哀感ごと。情事そのものを見るより、淫猥な印象が、濃密な匂いとなり、覆うようにねっとりと、痕跡を残す。
武田 泰淳
中央公論新社 (2013-01-23)
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