望まぬものであったはずの妊娠を選び取ったのは、娘を見失うまいとしがみつきながら、同時に、男への執着をも捨て切れぬ、自らの性より逃れるための、決意から。男に縋りたいと掴む性に引き摺られ、娘を手放してしまいかねない、自らを恐れて。醜く、身勝手な葛藤。だが、息苦しさ、生き辛さの中でずっと、もがいている。自らの心に対し、真摯であり続けるために。自らの内で、黒々と蠢くものたち、根強く息づいている陰影とさえ、目を逸らさず、向き合い続けるために。自らの生を、選択し続けている。
そこにあるのは、自らを許す甘さではなく、弱ささえ、秘することを許さぬひたむきさ。だからこそ、こちらも最後まで見届けたいと、佇み、とどまり続けるのだし、だからこそ、主人公の受けた屈辱、彼女のその選択を読み違えたかのような男性たちの言葉に対し、怒りを覚えるのだと思う。
津島 佑子
講談社
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