2015年6月18日木曜日

探偵、推理、怪奇もの盛り合わせ

ふわっとしたくくり。特に好きな三冊をば。

小沼丹『黒いハンカチ』
ニシ・アズマ先生+眼鏡=名探偵。素早く、鮮やかに!謎はいつの間にか、溶けるようにして解けて行く。難事件につきものの陰湿さはどこにもない。動機、手口まで、場合によっては割愛。だが、それでいいと思えてしまう。平然と読み進めてしまう。ニシ・アズマ先生の華麗なる活躍ぶりの前では、それをつらつらと並べることの方がむしろ、野暮になってしまうのだから。ぽんぽんとテンポよく、飄々と、軽やかに。瀟洒な語り口の賜物、その素敵さ、楽しさ、存分に味わう。

大岡昇平『疑惑 推理小説傑作選』
殺人事件と言う、あまりにも非日常的な局面に際して人間が見せる、愚かしくも無防備で、素朴な表情の数々。事件の凄惨な様相や、解決には至らぬ事件の不条理な結末から滲み出る人間の卑劣さ。しかし洒脱な文体は、糾弾と言う安易な道を走らない。むしろその卑劣さを、人間が矮小であるが故に生じるおかしみ、或いは悲しみとして、ありのままの、人間の当然の姿として、冷静に描いているように思う。すっきりと事件が解決されないもどかしさ、事件への皮肉が明らかにする人間の滑稽さ…その手触りは何とも親しみ深く、大変好ましい。

大泉黒石『黄夫人の手 黒石怪奇物語集』
人間の魂が放つ不可思議さ。不意に足を踏み入れてしまった命運の奇妙さ。恐怖に支配された人々が見せる滑稽さ、愚かしさ。次なる怪奇を無意識に求め、危機に瀕してなお、更に高まる好奇心。彼等が目の当たりにする異様な光景はみな、どこか妖しさを孕んだもの。退廃的であるからこそ、じわじわとねぶるように情欲を煽り、官能を焦がす艶めかしさ。じめじめと湿り、暗く、汚らしく、欲望、怨念…あらゆる陰気に塗れた、いかにもな舞台。軽やかにカラッと、冷酷にキラリと、飄々とした語り口は自在にその光り方を変え、読む者の心を魅了する。



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